From China
中国の新エネルギー車ブーム
の舞台裏
Chen氏は滴滴出行のドライバー。滴滴出行は、中国最大の配車サービス会社であり、1500万台以上の車が稼働している。同氏が使用する車は上海に拠点を置く上汽集団製の人気モデル、Roewe e550プラグインハイブリッド。日々の走行距離がかなり長いので、航続距離が60キロのバッテリーでは走行中すぐにエンジンに切替わり、燃料費が発生してしまう。Chen氏は自分の車の信頼性の問題や維持費が高額との評判を気にしているが、車に対しては概ね満足している。それは、中国政府による新エネルギー車(NEV)奨励プログラムの適用を受け、トータルで支払った購入額を低く抑えることができたからである。
NEVとは、空気を素材とするハイテク電池と内燃機関を半々ずつ駆動に利用する最新式のハイブリッドを指している訳ではない。実際には公的な補助金の給付対象となる電動化車両を中国政府が定義づけするために使用する用語である。具体的には、いわゆるバッテリーのみによって駆動される電気自動車(BEV)、そしてプラグインハイブリッド車(PHEV)が含まれる。中国のNEV政策は、一部、あるいは完全に電動化された車両の開発を促進することを狙いにしており、環境に対する懸念が高まっている世論を和らげることを目論んでいる。
電池による航続距離が50キロ以上のハイブリッド車を購入した際に、Chen氏が受け取った補助金の総額は、国からの3,800ドル(米ドル、以下同じ)に州/市からの1,800ドルを加え、合計で5,600ドル。また、Chen氏は取得料金の相場が15,000ドルほどのナンバープレートも無料で取得することができた。ナンバープレートを取得するための高額な料金が免除されたことと、補助金、それに約10%の自動車取得税の免除を合わせると、同氏は車両購入費用を23,700ドル以上も節約できたのである。
中国では、急成長するNEV市場の原動力は主として政府の優遇政策と高額な補助金に負うところが大きい。中国自動車工業会によると2017年には前年同月比で53%増の770,000台以上のNEV車が販売された。これは、乗用車全体の販売台数が1.4%しか伸びなかったことと比べると驚異的な成長率である。
中国の顧客がNEVを好意的にみていることは最近発表されたJ.D. Powerの調査でも明らかである。調査によると、新車を購入する意向のある顧客の95%以上がNEV車の購入に対して「非常に買いたい」か「やや買いたい」と回答。さらに、将来的に「NEV車が内燃機関車に取って代わる可能性が最も高い」という設問に対して86%が「非常にそう思う」あるいは「ややそう思う」と回答している。
同調査によると、購入理由の3位と4位にそれぞれ国/地方自治体の補助金およびナンバープレート料金の免除が挙げられた。これは環境技術/コンセプト(76%)および燃費(63%)に次ぐ高いランキングである。しかし、ナンバープレート料金免除が奨励策として適用されない場合、非購入意向が29%に跳ね上がる。国/地方自治体の補助金がない場合は非購入意向がさらに上がる。自動車のナンバープレートに関しもう少し説明すると、例えば上海ではナンバープレートが法外な取得料金を支払ってもなお入手困難な場合がある。このため無料で交付されない場合は「絶対に買わない」と「おそらく買わない」の合計が55%にも達してしまう。
こういった状況下において業界は混とんとした様相を呈している。一方では起業家がかなりの投資をすることにより自動車製造、とりわけ電気自動車の製造に新規参入を果たしている。他方、既存の自動車メーカーは、将来の段階的な補助金の削減とそれに伴う需要の減少により市場の見通しが不確実なため、新エネルギー技術への開発投資を渋っている。一部の国産ブランドなどは、自社のNEV車の電池で走行する航続距離を政府の補助金給付適合要件をわずかに上回る60キロや80キロに設定している。
NEV車市場は今のところ驚異的な伸びを示しており、環境問題への対策として認知されている。しかも、Chen氏の場合のように購入者の多くが満足している。それにもかかわらず中国政府は今年、補助金をさらに減額し、2020年末までに段階的に廃止すると正式に発表した。自動車メーカー各社は慎重に今後のNEV需要の減少に備える必要が出てくるだろう。
- 筆者紹介
- Shana Zhuang
J.D. Power 上海オフィスでマーケティングを担当。好きなNEV車のタイプはプラグインハイブリッドではなく、通常のハイブリッド車。残念ながら中国政府の将来の自動車政策には含まれていません。
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