From Germany
Tesla Model3がヨーロッパで発売:
中流層にも買える未来形のモビリティの登場か
Tesla Model 3が2月にヨーロッパで発売されるとすぐに大ヒットとなった。 Teslaのラインナップに追加されたこの最新モデルは、デビューした最初の月に電気自動車(EV)のベストセラーになったのだ。
このように全てのメーカーが夢見る好調な滑り出しを果たしたTeslaであるが、果たしてModel 3は一般ユーザーのニーズや要望に応えることができるのであろうか。Model 3はEV市場において、イノベーター理論の言うところの早期採用者(アーリーアドプター)よりもっと広がりのある顧客層に受け容れられるであろうか。Model 3の成功は他のメーカーに引導を渡したことになるのだろうか。
ドイツでModel 3が販売された直後、J.D. Powerの専門家チームがヨーロッパで最初の顧客の1人に会った。買ったばかりの新車を見る彼の眼差しは輝いており、その熱意に圧倒されそうであった。改善すべき点を何か一つ挙げるよう促してみたが、「特にないですね。音声認識はほとんど機能していませんが、次回のアップデートで治ると確信しています。」まさにこのようなユーザーが、Teslaブランド信奉者であり、世界中にいる「Teslaマニア」の代表的な声なのである。
初期採用者は、自分の車に関する知識が豊富で、初期不具合についても例外ではなく詳しい。しかし、画期的な製品や機能に魅せられ、そういった問題も気にならないのである。 Tesla Model SおよびModel Xの顧客は、製品の革新的な魅力に興味をそそられ、早い段階で新しいものを試してみたがる「新しいモノ好き」、つまりイノベーター理論における革新者(イノベーター)か早期採用者に分類できる。
しかし、ラインナップ3番目のモデルとなるTesla Model 3は、イノベーター理論で定義される前期追随者(アーリーマジョリティ)をターゲットにしている。Teslaの戦略は、製品価格を下げてより幅広い顧客層がEVを買えるようにすることである。Teslaにとり新しい顧客層となるが、同社がこれまで得意としてきたイノベーター理論の初期段階に分類される顧客とはニーズや要望が大きく異なるというところが一筋縄ではいかないところかも知れない。
前期追随者の特徴はイノベーションにお金を使いたがらず、不具合に対する寛容性が低いことである。製品の革新性にはあまり関心がなく、「新しいモノ好き」やEVのコアなファンと比べると深い製品知識を持っていないことが多い。したがって、製品の魅力自体に説得力がないと響かない。Model 3は、EVの弱点に対するソリューションを幾つか提供しているので電動化社会に向けて明るい展望を開いている。例えば航続距離は最大560㎞にも達し、ほぼ全てのライバルを凌駕する。最も航続距離が長い仕様のモデルで価格が54,800€と、Model 3はTesla社がこれまで提供してきたどのモデルよりも希望小売価格が低い。米国で発売済みのエントリーモデルは$35,000と更に安いが、ヨーロッパでも今夏発売予定。さらにTeslaは2019年末までに、ヨーロッパ全域の99%をカバーする充電網を構築し、第3世代のスーパーチャージャーとよばれる急速充電器を実用化する予定である。
航続距離、購入コスト、充電網、充電時間は、依然としてEV普及を妨げる壁となっている。こういったEV固有の問題点が解決されるか或いは、一般の顧客に受容されるようになれば、今度は安全性、デザイン、使い勝手、信頼性、ハンドリング、品質といった自動車にとり普遍的なニーズに焦点があてられることになる。モデル3は、競合車と比べてEV固有の問題点への対処ができているようだが、次は普遍的なニーズに応えているかがセグメントリーダーであり続けられるかどうか、勝負の分かれ目となる。 では具体的に普遍的なニーズに対して十分に対応できているか検証してみた。Teslaの運転席に初めて身を沈めてみると、インテリアのミニマリズムデザインに驚かされる。先進的なデザインの15インチ大型タッチスクリーンと洗練され、光沢のある素材がこれまでにない印象を与えるが、決してギミックではない。むしろ、インフォテインメントシステムを操作する反応速度の高さに好感が持てる。
しかし、より深く観察すると、この洗練された印象とは裏腹に、いくつかの機能が不足していることに気づく。確かにタッチスクリーンは便利なところがあるが、Model 3の場合はタッチスクリーンしか操作方法がない機能が幾つもある。例えば音声認識による操作は限られた機能にしか適用されていない。スイッチなどの物理的な操作系といえばパワーウィンドウスイッチ、ドアハンドル及びステアリングホイールスイッチのみである。そしていずれもなんの表示もない。特にステアリングホイールスイッチの場合、インフォテインメントシステムで選択された機能毎に操作内容が変化するため、運転中はさらに使いにくいものとなるのである。
もっとも気になるのがドライバーの視界の中央にインストルメント・クラスタやヘッドアップ・ディスプレーがないことである。このため運転中の操作に支障をきたすこともある。ここまで来ると、シンプルなデザインもすっきりと言うより、やり過ぎとの印象をぬぐえない。このため、実際に運転してみるといくつかの重要な機能が操作しにくいことがわかる。また、特に技術に精通していない顧客にとり、道路から視線を離さずにブラインドタッチで操作をすることがほとんど不可能だ。この点はJ.D. Powerの2018年U.S. Technology Experience Index StudySM (米国TXI調査)の結果により確認されている。暖房やエアコンのように頻繁に操作される機能に関し好ましい操作方法について尋ねたところ、タッチスクリーンを選んだのは20%ほどにとどまり、スイッチなどの何らかの物理的な操作方法を好む傾向が強いことがわかる。
行き過ぎたシンプルデザイン以外にも問題がある。パネルとパネルの合わせがバラバラであったり、建付けが悪かったりと、メーカーとしての経験が(相対的に)不足していることが露呈している。既存の自動車メーカーはソフトウエアの不具合では様々な課題を抱えているが、Teslaのような経験不足がもたらすような問題ではあまり苦労をしていない。Teslaの問題は設計品質にもみられ、たとえば雨の日にトランクを開けると荷室に雨水が侵入してしまうのである。
こういった問題があるにも関わらず、Teslaの勢いは止まらない。一般的なユーザーは様々な不備に慣れるか、目をつぶらなければならない。 EVの覇者はまだ出現していないが、基本をしっかりと作り込んだ上に革新的なEV技術を組み合わせることができたメーカーが成功するであろう。
既存のメーカーは今後数年以内に電動化されたモデルのラインナップを充実させるだろう。「隠し玉」の一つに挙げられるのが2019年のジュネーブモーターショーで発表された、都市型EVのホンダe。また、メルセデス・ベンツは年内にEQCを投入しエコカーのライナップであるEQを拡張し、2021年までに少なくとも5つのモデルを追加する予定である。BMWiは、i3とi8だけのラインナップの穴を埋めるべくi4、i5、iX3およびiNextを投入する予定だ。VWは2026年以降は内燃機関だけの自動車を造らないと明言。そしてボルボと吉利汽車が共同開発中のPolestar 2はTesla Model 3の有力な対抗馬と目されている。これらのメーカーは、何十年もの間モビリティに関する顧客のニーズを満たすノウハウを蓄積してきたので、新製品でEVのあらゆる問題点を解消できれば即座にTeslaの強力なライバルにあるだろう。
代替交通手段がますます業界のかく乱要因になって行く中、消費者が現在そして将来、どのような移動手段を望むのかを理解することがこれまで以上に重要になってきております。このように急速に変化する環境下で、J.D. Power社は自動車メーカーや他の業界関係者に、消費者に関する重要で有益な考察を提供することを使命としております。こういった考察は、御社が市場に適した電動化戦略を開発する上で必ずや一助となると確信しております。
- 筆者紹介
- Henrike Wagner
Consultant, Automotive Consulting
J.D. Power Europe
- 筆者紹介
- Theresa Abele
Senior Consultant, Automotive Consulting
J.D. Power Europe
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